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青春ミステリ「ロストデイズ」
5月9日(金)~25日(日) 赤坂レッドシアター 脚本 米山和仁(ホチキス) 千葉美鈴 演出 毛利亘宏(劇団少年社中) 企画・プロデュース 杉田龍彦(デジタルハリウッド・エンタテインメント) 劇団少年社中 ホチキス DHE (旧デジタルハリウッド・エンタテインメント) フォロー中のブログ
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2-3
それから数日が経って、バレンタインデーがやってきた。 マフラーはほぼ出来上がっていた。最後のボンボンのつけ方を教えてもらうために、あたしは再び鈴木さんの手芸店を訪れた。 あいにく鈴木さんは、日中は大学に行っているらしく、夕方からじゃないといないらしい。店長らしき男の人が、鈴木さんの電話番号を教えてくれた。こんな簡単に個人情報を教えるなんて、無用心だなと思いつつ、あたしは店長らしき男性に頭を下げて、手芸店をあとにした。 鈴木さんとあたしは同じ大学だった。 あたしたちは先端芸術科の校舎で待ち合わせた。鈴木さんは真っ赤なロングマフラーを巻いて現れた。自分で編んだらしい。 「ハサミ持ってる?」 カバンからハサミを出して手渡すと、鈴木さんはいとも簡単にボンボンを作り上げ、マフラーの先端につけてくれた。 「ほい。出来上がり」 完成したマフラーは初めて編むにしては上出来に見えた。 「今日渡すの?」 「はい、会えたら」 「喜ぶよ、きっと」 「驚くと思います」 「そりゃもっといい。驚きは恋のスパイスだから」 「だったらいいけど」 「もし渡さなかったとしても、そいつを想いながら編んだってことは無駄にはならないよ」 「もし渡せなかったとしても、自分で使うんで無駄にはなりません」 鈴木さんは午後の授業に出るために、校舎へ戻っていった。 あたしはゆっくりと構内を歩きながら、彼の姿を探していた。白衣の人とすれ違うたびに、彼かもしれないと思って目で追いかける。そうやって何人もの人を振り返ったけれど、残念ながら全員が別人だった。 あたしたちが初めて出会ったベンチに腰かけて、あたしはひたすら待った。多くの時間があたしの前を通り過ぎていった。おかげで何度もくしゃみが出て、ポケットティッシュを三つも消費した。明らかに風邪を引いた。そしてその日、彼はやってこなかった。
by lostdays-ex
| 2008-05-06 01:37
| ブログ小説「プリズムリズム」
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