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青春ミステリ「ロストデイズ」
5月9日(金)~25日(日) 赤坂レッドシアター 脚本 米山和仁(ホチキス) 千葉美鈴 演出 毛利亘宏(劇団少年社中) 企画・プロデュース 杉田龍彦(デジタルハリウッド・エンタテインメント) 劇団少年社中 ホチキス DHE (旧デジタルハリウッド・エンタテインメント) フォロー中のブログ
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1-3
次の週の月曜日、あたしは彫刻科を訪れた。澤口さんの石は、形をあらわにしてきている。もしかして美少女戦士厚化粧さんかもしれない、とあたしは思った。だって、その女性の手にはグローブがしてあったから。 「これって厚化粧さん?」澤口さんに聞いてみた。 「多分ね」 「多分?」 「俺、自分の興味あるものしか彫れないんだ」 「普通そうじゃないの?」 「でもそれじゃ彫刻を仕事には出来ない」 「そうなの?」 「だって依頼されたもの彫ってるうちに、全部厚化粧さんになっちゃうじゃん」 あたしはその光景を想像してふき出した。依頼元のクライアントに怒られている澤口さんの姿は、何だか笑えた。久しぶりにお腹から笑った気がして、気分が爽快になった。 この人、やっぱり変な人。 それから、家庭教師の仕事やらテストの準備やらで何かと忙しく、次に彫刻科に来れたのは、11月が終わろうとしている頃だった。 「久しぶり」 澤口さんは照れたように、手を上げる。あたしはその手にグローブがないことに気付いた。 「あれ、グローブは?」 「うん……なんとなく」 澤口さんは曖昧に答える。 「完成したんですか?」 「うん……まあね」 やっぱり曖昧に答える。 澤口さんは一体の像を指差す。その像の手にもグローブがなかった。あたしはその像の顔に見覚えがあるように感じたが、それが誰なのかは思い出せない。 「最初は厚化粧さんを作ろうとしてたんだ。だけどなんか、仕上がったら君になってた」 あたし? 「俺、自分の興味ないもの彫れないって言ったじゃん。だから……」 仕上がった像は、あたしだった。 ちょっと美化されている気もしたけれど、確かにそれはあたしだった。 「ありがとうございます」 こういうとき何て言えばいいのか分からなくて、とりあえずその台詞が口からでる。 あたしはカバンを地面に置き、その石に触れてみる。ひんやり冷たい。でもどこか温かいような気もする。あたしは次に澤口さんに何て言えばいいんだろう。 つづく (千葉美鈴 著・撮影)
by lostdays-ex
| 2008-04-30 20:29
| ブログ小説「プリズムリズム」
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